2023年にスタートした「miffew」。
初めて手にとったときの率直な感想は「え?これがダウンなの?」でした。
セグメントごとにたっぷり詰められたダウンが、もこもことボリューム感のある構造を持つ、あの一般的なイメージとはまるで違ったからです。
Pコート、ダッフルコート、そしてシャツ…と、ダウンが詰まっているのか疑いたくなるようなラインナップですが、手にとると、しっかりダウンを感じ、温かさもある。そして何より「軽い」。
冬のアウターにありがちな重たさ、動きづらさを払拭してくれるアイテム。これらはどのようにして生まれたのでしょうか。デザイナーの井上さんにこのブランドに込めた思いを伺いました。
服飾専門学校を卒業後、アパレル企業にてデザイナーとして勤務後、2015年にBISHOPへ入社。 社内の他ブランドのデザイナーを経てmiffewのデザイナーに就任。
先日より続々と「miffew」のアイテムが入荷しているのですが、ほんとにダウンに見えないアイテムが多くて驚いています。
井上さん
コンセプトは「驚きのあるあたたかさ」なので、驚きを体感していただけて嬉しいです。
昨今のダウンウェアって、スポーツやアウトドアの文脈でファッションシーンへと浸透していって、ダウン=防寒、驚きを体感していただけて嬉しいです。少しスポーティーでハイスペックな印象がありませんか?
たしかに。思い浮かぶブランドがいくつかありますが、ハイスペックでスポーティですね(笑)。 ダウンってコートと違ってかさばるし、特に寒い日に気合いを入れて着るイメージがありますね。
井上さん ですよね。これまでもダウンのデザインには関わってきて、ダウンの良さを知る中で、変化する日本の冬に寄り添った、コートと同じ感覚で手に取れるダウンを作りたいな…というのがブランドスタートのきっかけでした。 スポーツやアウトドアの文脈から外れ、今までとは違うアプローチができないかなという思いがあり、純粋にファッションとして楽しめるダウンを思いっきり追及しよう!とブランドが立ち上がりました。
ファーストシーズンからその意気込みを感じるラインナップでしたよね。ダウンという特別感がいい意味でなくて、自然に手に取ることができるアイテムが多い印象でした。
井上さん デートに出かける時、家族のハレの日に、記念日のディナーに出かける日、などなど、ちょっと気分が上がるような特別な日にも、どのシーンでもコートと肩を並べて選択肢に入るようになれたらなと。。
「miffew」としてダウンウェアをつくる上で、心がけたことはありますか?
井上さん 先にもお伝えしましたが、ブランドのコンセプトでもある「驚きのある暖かさ」はとても意識しました。「驚き」は「ダウンに見えない」という意味を含んでいて、驚きを仕掛けるにはとても重要なファクターなので、細部に至るまでこだわりを詰め込みました。
こだわりというのは、主にどういった部分に見ることができますか?
井上さん アイテムでいうと、初年度から継続して展開している、ステンカラーコートとPコートですね。かなり苦戦したんですよね。
ファーストシーズンの時から、何か変更したんですか?
井上さん いえ、今シーズン大きな変更点はないんですが、初年度に本物のウールを使って、重たくないのに重厚感のあるダウンコートが作りたくてチャレンジしました。軽さを意識して薄いウールを使うとダウンの膨らみが出てしまって、結局ダウンだとわかってしまうんですよね。素材や芯やパターンに、全てにおいて試行錯誤の連続で…。今までにないダウンパックや、新しい裏地仕様にしたり、とても大変でした。
よく見ると、袖元がダウンにはないようなシャープなラインだし、ステッチの食い込みの感じとか、ウールのコートと遜色のないディティールですよね。
井上さん そうなんです。袖口はキリッとなるように袖口の芯やダウンの量は変えていますし、ウールのコートのリアルな感じを出すためにステッチ部分だけ厚い芯を貼ったり…。ここにはこれ、あそこにはあれ、何百種類とある芯の中から、実際の生産現場で貼りながら進めていったんですよね。こんなに多いパターン数のアイテムは人生で初めてです(笑)。
生産や工場が大変そうですね。
井上さん パターン数を数えていると通常の数倍にもなっていて、スタッフの間で「多すぎる!」と、笑いが起きたくらいです(笑)。でも、生産担当とものすごく勉強を重ねて、知識を蓄えられたことは「miffew」の基盤となっていて、今のデザインにすごく活かされています。
メンズでもレディースでも着用できそうな、ジェンダーレスなアイテムが多い印象ですが、それは意図的なことだったんですか?
井上さん ジェンダーに囚われず、自分のスタイルに合うものを選んでもらいたくて、デザインしているときは性別を意識することはあまりなかったんです。最終的にラインナップが揃った段階で、他のスタッフに客観的に意見をもらいながら、メンズ、レディースとアイテムを分けた経緯がありますね。 ただ、サイズ感としては1、2はレディース、3、4をメンズのイメージで作っています。
だから、よりジェンダーを意識させないデザインになってるんですね。
井上さん そうですね。私自身、サイズ「3」をブカブカに着たいアイテムもありますし、男性でもタイトな感覚がお好みの方もいらっしゃるので、ご自身のスタイルに合わせて選んでいただけたらいいかなと思います。 ただ、サイズ「2」と「3」の差が大きいので、選ぶ際にはご注意くださいね。 女性には全てのサイズを自分のスタイルに合わせた着こなしを楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。
あと、素材やカラーが多い印象だったんですが、そのあたりは意識してのことだったんですか?
井上さん 型数的にはそんなに多くないんですが、素材を変えたりしてるから、そう見えるのかな? 軽さと暖かさ、撥水性など機能を持った素材を使ったベーシックなアイテムから、「今までとは違うアプローチ」を発信していく側のブランドでありたいということろで、ブランドを表現する意図のあるモノづくりを心がけていることもあり、バラエティの豊かさが、そう見えるのかもしれませんね。
中でも、ダウンシャツは他のブランドでは見かけませんし、すごく驚きました。
井上さん すごく好評をいただいていて、嬉しいです。 シャツは一番長いシーズンお楽しみいただけるアイテムだと思っています。半袖Tシャツに羽織ったり、少し季節が進めばロンTに、さらに季節が進めばスウェットやニットと、インナーをチェンジすることでアウターとして長く楽しめます。うちの男性スタッフは、忘年会にダウンシャツとマフラーで参加してましたしね(笑)。また、インナーダウンって「防寒着」として、コートと一緒に脱いじゃうことが多いと思うんですが、ダウンシャツならインナーダウンの役割も果たしつつ、スタイリングとしても楽しんでいただけると思います。
たしかに。ダウンシャツで嬉しいのは、衿裏に取り外して洗濯できるパーツがついていることですよね。これはすごくいいアイデアだと思いました。
井上さん 気づいてくださいました?ダウンのクリーニングはそれなりにコストがかかるので、取り外して洗えるパーツを対応可能なアイテムには付属させました。アウターの中でもダウンって毎年買い換えるようなアイテムではないので、長く愛用していただける工夫をすることも念頭においています。
「miffew」はこれからどんなブランドを目指していきたいですか?
井上さん コンセプト的にオーセンティックであることには、こだわりたいですね。 もともとあるアイテムにダウンを内包して、デザインもブランド自体も飽きのこない、消耗されない存在でいたいですね。オーセンティックな佇まいが感じられるアイテムを軸に展開しているので、長く着用いただけて、脇役でありながらも、miffewがいるからスタイリングが決まるというようなブランドに落とし込みたいです。
すでに来シーズンのアイテムにも取り掛かっておられるんですよね? これから何かチャレンジしてみたいことはありますか?
井上さん そうですね。アウターという概念にとらわれず、思いもよらない素材にダウンを入れたり、素材の開発にもチャレンジしたいですね。また、生産背景にも囚われずにより良いモノ作りを追及していきたいです。 今シーズンもまだまだこれからですが、来シーズンもさらに驚きをお届けしていきますので、ご期待ください。
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